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会長挨拶

会長就任挨拶
才田 一幸
会長(代表理事)才田 一幸
 溶接学会会長を拝命しました大阪大学の才田一幸です。ものづくりの最重要基盤技術である溶接・接合分野において、世界的に権威と伝統がある溶接学会の会長をお引き受けすることになり、大変光栄に存じますと共に、大きな責任に身が引き締まる思いです。これまで、偉大な諸先輩方が築いてこられた溶接学会の名を汚さぬよう、務めて参りたいと存じますので、何卒よろしくお願いいたします。
 当溶接学会の運営は、会員各位のご理解・ご支援と、各種委員会メンバー各位のボランタリーな活動により支えられております。まずは、日頃の皆様方のご協力・ご支援に心より感謝申し上げます。
 さて、2020年より猛威を振るっている新型コロナウィウルスによる経済活動や社会活動の停滞や、先月来勃発しましたウクライナ侵攻による国際情勢の不安定化は、我が国全体の社会・経済情勢に非常に大きな影響をもたらしております。我々溶接学会も例外ではなく、これまでのような形式で学会活動が開催できなくなり、学会の本来の使命であるSocietyとしての役割、特に、人的ネットワーク形成に大きな支障となっています。これまで半ば常識的に行われてきた行動や習慣がすっかり様変わりし、コロナ以前の価値基準や規範が大きく変化してしまいました。例えば、これまで、対面・面着を基準としていた講演会、全国大会、会合やイベントがネット越しとなったり、国際会議や海外交流では、現地や現場に出向かずにリモートで済ますことに違和感が無くなってきました。しかしながら、一方で、これらの変化は、溶接学会に新しいシステムやツールの導入をもたらしました。廣瀬前会長のご尽力により導入された新しい方式の試行や運用が、これまでには無かった効果を挙げています。また、緊急時の意思決定プロセスとして、正副会長と担当理事から構成される運営協議会が設置され、タイムリーで迅速な意志決定が可能となるとともに、オンライン会議やテレワークの導入など、学会業務や事務もかなりの効率化や省力化が図られるようになりました。その結果、学会員に対するサービスを大きく損なうこと無く、学会活動を維持・発展できる可能性が見出されました。このように、ここ数年の新しいチャレンジは、一定の効果を上げましたが、大きく変化している世の中にあって、溶接学会は、この先どのような役割や使命を果たして行くのか、また、ポストコロナ、ウィズコロナを見据え、どのような施策によりそれを実現していくのかを、これまで以上に明確にすることが求められていると思います。特に、変わってしまった、あるいは、さらに変わりゆく人々のマインドや価値観に学会活動をどのようにマッチングさせていくかは、取り組むべき最重要課題であると思っています。これらの難題に立ち向かい、溶接学会をより一層発展させることが、私に課せられた最大の使命であると認識しております。
 学会の最大の役割は、学問分野の基盤となる学術の構築と、それをベースにした最新の研究情報の発信および情報共有の場の提供にあることは、言うまでもありません。溶接学会における学術基盤の構築に関しては、既存分野の体系化、更なる高度化は言うに及ばず、溶接・接合に密接に関連した新たな領域、例えば、AMやAI、MIなどへ拡張する積極的な施策を講じたいと思います。学会の学術情報については、投稿論文数の減少や、記事を執筆する人材の枯渇が課題となっています。論文投稿に関しては特集号の発刊などの対応策が導入され、投稿数の改善傾向が見られています。しかしながら、大学や中立研究機関からの和文誌への投稿意欲が低いという構造的な問題は解決しておりません。注目度が高い研究分野や活動が活発な研究分野に関しては、纏まった成果をタイムリーに公表できる場を提供するとともに、英文誌のWelding LettersやWelding International誌への推薦投稿を活用した積極的な対応をアピールしていきたいと思います。また、学術情報を収集してまとめ、発信できるような指導的・教育的役割の人材育成についても取り組まねばなりません。特に、アカデミアにおいて、次代を担う人材の枯渇は由々しき問題です。若手、学生などの後進人材育成に資するため、これまで溶接学会が築いてきた学術知見を書籍や資料などの形で取り纏め、成果として後世に伝えていくことも重要と思っています。次に、学術情報の共有に関しては、全国大会が最も重要な場であることは、疑うべくもありません。廣瀬前会長の下で、コロナ禍における全国大会の新たな開催形式として、オンデマンド方式の聴講システムと掲示板システムを併用したオンライン・システムが構築されました。この新たなシステムを用いて、各種講演やフォーラム・シンポジウム、業界セッション、技術セッション、企業展示などを開催し、また、これまで対面開催であったポスターセッションもRemoを活用してオンラインで再現できるなど、これまでの大会メニューを大きく損なうこと無く、魅力的で利便性の高い大会を開催できる選択肢が整備されました。また、通常総会も遠隔会議システムによる完全オンライン化を実現しました。さらに、これらのシステムは拡張性が高く、全国大会以外の各種イベントや講演会・セミナーなどにも適用され、これまでには無かった様々なメリットを享受できるようになりました。しかしながら、一方で、対面開催や現地開催には、捨てがたいメリットや魅力があります。特に、学会の重要な目的である人的ネットワークを形成する上で、面着は極めて重要と考えます。今後のポストコロナ、ウィズコロナを見据え、利便性や効率性を確保しつつ、現場体験を如何に確保し、人との繋がりを如何に作っていくかが今後の課題であると思います。1日も早い対面開催の復活を模索しつつも、対面開催とオンライン開催の双方のメリットを活かした新たな開催方式、例えば、ハイブリッド方式の導入なども積極的に講じていきたいと思います。また、他学協会や団体とのコラボを含め、全国大会の更なる魅力化と拡充を推進していきたいと思います。さらに、学会のアウトリーチ活動として、学生も含めた一般人への情報発信も重要です。学会誌記事の更なる魅力化や刷新、HPのリニューアル、教育講座・講習会の刷新、学術情報アーカイブの充実など、研究委員会、若手会員の会や各支部の協力を得ながら、情報発信力をより一層強化していきたいと思います。
 一方、学会活動を支えるためには、財政基盤の安定化が何よりも重要です。コロナ禍が当学会の財政状況に重大な悪影響を及ぼすことが懸念されましたが、幸いなことに、逆に一時的には財政基盤の改善が図られました。しかしながら、会員数と賛助員口数の減少に歯止めが掛からず、恒久的な財源不足な体質に変わりはありません。今後の学会活動の拡充を考えると、財政状況の逼迫は避けがたく、早急に健全な財政基盤を構築することが求められます。会員増強は当然のこととして、会費収入以外に学会の収益に貢献する積極的な施策も必要と考えています。学会が保有する様々なコンテンツをフルに活用して、収益活動に資するアイディアの具体化に向け努力していきたいと思います。また、学会、特に研究委員会において、コロナ禍で蓄積された資金を有効に使う活動計画を早急に立案し、その実施を積極的に促していきたいと思います。一方、これまで、当学会は、日本溶接協会との連携を深めるべく、JIW共同企画委員会なる組織を発足させました。日本溶接協会との連携を通じて、溶接学会の活性化と財政基盤の安定化を図る機運が高まり、一定の連携効果は得られました。しかしながら、現時点では、その効果は不十分と言わざるを得ません。今後、JIW共同企画委員会の役割を精査し、日本溶接協会との連携を一層強固にすることが重要と考えています。溶接・接合分野の学術分野を担う溶接学会と、技術分野を担う日本溶接協会が真に連携して始めて、我が国の溶接・接合分野が維持されるのであって、どちらが欠けても、存続が危うくなるように思われます。日本溶接協会との強固な連携が、溶接学会の安定的存続にも寄与することを期待しています。
 最後になりましたが,会員の皆様には、本会の更なる発展のため、より一層のご支援とご高配を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
2022年4月13日